喪失感
あなたは目を離したら
この真っ白なシーツに溶けていってしまいそうで
私は無意識に手を握った。
だから嫌だったんだ
大切や大事を知ることから逃げていたのは
目の前にある最悪の展開を避けたかったから
卑怯な私を、愚直に包んだりなんかするから
こんな、道端の塵を愛したりなんかするから。
「...馬鹿」
「へへ、ごめんね」
支えることも、伴走することも教えてくれて
いっそう命に未練が生まれて
それならば、開き直って謳歌してやろうと
震える足をなんとか前に、出したと、いうのに。
やっとのことで、呼吸をし直したというのに。
この期に及んで斜に構えたがる脳が邪魔で
「どうせ、の予想が当たっただけだろ」
などと宣う、脳にこびりついた天邪鬼を刺し殺す。
空っぽになった脳から、ぎりぎりと痛む胸から
持て余すほどの幸福が思わず噴出する。
真っ直ぐに、迷いなく私を見つめるあなたと目が合う。
ぼろぼろと泣きながら、決して視線を逸らさない。
もう二度と逃げない。
あなたが瞬きをする。
今、私達は察した。
終わりを学ぶあなたと、今世を受け止める私は
どちらからともなく、私達らしく、不器用に告げる。
「幸せだよ、この1秒が尊いよ、来世も一緒がいいよ」
「私も。約束するよ」
時に怯えてしまうほど素直なあなたは
あまりに綺麗に微笑んで旅立っていった。
上がった己の口角に気づく。
ああ、よかった。
私も笑い返せていた。
9/10/2024, 3:54:46 PM