日夜子

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「さよなら……」

 二人だけの放課後の教室。いつもの隣同士の席に座って、君は前を向いている。私をからかってばかりの君が、強ばった笑顔でさよならと言った。
 
 隣の席で居眠りする君を、グラウンドを眺めるフリで見つめていた。君がする好みの女の子の話を、気のないフリで聞いていた。
 本当はきみを真っ直ぐに見つめたくて、私のことどう思ってる? って訊きたかったのに。

 普段は教室のすみずみまで届くバカでかい声のくせして、今日の君は消え入りそうな声で言う。
 
「親の転勤でさ、遠くに引っ越すから」
「……さっきなんて言ったの?」
「えっ? さよなら?」
「違う! さよならを言う前!」

「えーと……」
 傾いた日差しが教室のロッカーまでオレンジに染めている。そのせいか君の横顔も色づいて見えるよ。

「好きだった……」

「……ならさ、さよならじゃないじゃん!」
「いや、だってさ!」
 弾かれたように君はこちらを見た。
 
 君と正面から見つめ合う。私だってずっとずっと伝えたかった気持ちを言葉にするんだ。
 さよならになんかしたくないから。

「あのね、私もね…………」



 #16 さよならを言う前に 2024/8/21
 
 

8/20/2024, 10:13:05 PM