Hikarumori

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お題:ずっとこのまま


 『ずっとこのまま』に続きがあるのなら、
 どんな言葉が相応しいだろう。

 『時が止まれば良い』は無難だと思う。この夜が明けることを望まず、永遠の闇の中で過去だけを想起する。食卓の匂い、家族の笑い声、初めて握った手、その何とも言えない温度、愛しい日々、「過去だけで良い」と人生に幕を下ろす。それは、未来への諦観だろうか。反して、懐古だろうか。

 『変わらないでいてほしい』はニュアンスが変わる。世界を固定するのではなく、誰かを固定する願いだ。言い換えるなら、その人らしくいてほしいと祈ることなんだろう。ただその言葉が呪いにならないとは言えない。その人が『その人らしさ』を問い続けるのなら、この言葉は澱になる。

 『生きていてほしい』なら前述したものよりも切実で健気な願いになる。ただ生きていてくれるだけで良い、とも言い換えられるかもしれない。それは他の全てを赦す代わりに、死だけは赦さない紛うことなき呪いだ。それが吉と出るか凶と出るかは、受け取り手に委ねられる。言葉の真骨頂だ。


 「と、考えるのは無粋だね」

 僕は彼の遺書を読むのをやめ、眼鏡を掛け直す。そして、彼の最後の言葉を三つ折りにし封をした。

 『最後に君へ、ずっとこのまま』

 彼の物語の最後は、この文章で締めくくられた。何通りかの解釈はあれど、その続きなどありはしない。あるとすればそれは幽霊で、僕たち生者が生み出した錯覚だろう。それはただの言葉であった最期を捻じ曲げるという面もあるのだ。

 けれども幽霊にこそ物語がある。届いてこその言葉で、錯覚するほどの愛だろう。僕はそれが読みたい。

 「『ずっとこのまま』……なんちゃって」

 独り言が夜に溶ける。その情景にいつか自分の言葉が文字になることを望まずにはいられなかった。




◯✉️の話

1/12/2026, 12:04:27 PM