【明日、もし晴れたら】
窓に吊り下げられたいくつものてるてる坊主が、軽妙な笑みを一様に浮かべている。ぶらぶらと揺れるそれを指でつつけば、君は少しだけ恥ずかしそうに笑った。
「もし晴れたら、少しだけ外に出ても良いよって言われてて」
病院の無機質な窓の向こうには、雨粒が激しく打ち付けている。梅雨なのだから仕方がないことだけれど、毎日この真白い部屋の中から重たい雨雲を眺める君の心情を思うと、神様を罵りたくなった。
「ねえ、明日は学校はお休みなんだよね?」
君の問いかけに一つ頷いた。と、君はパァッとその顔を輝かせる。無邪気で明るい君の笑顔は、いつだって僕の心を温かなもので満たしてくれた。
「じゃあ明日、もし晴れたら。一緒にお出かけしてくれる?」
「うん、もちろん。君の行きたい場所、どこにだって付き合うよ」
約束だよ、と。どちらともなく小指を絡め合った。ゆびきりげんまん、なんて軽やかに歌い合う声が、静寂に包まれた病室に響き渡る。君の氷のように冷たい体温が、指先にやけに残った。
ざあざあ降りの雨を窓から眺めながら、てるてる坊主の頭をぐしゃりと握りつぶす。
「結局約束、守れなかったね」
主人を失ったがらんどうの病室で、僕は小さく呟いた。
8/1/2023, 9:53:52 PM