『さよならは言わないで』
知ってたよ。俺とお前は住む世界が違う。
ずっと気付かないフリをしていた。出会った時からずっとだ。とうとうきたんだな、離れ離れになる瞬間が。
次の約束は無い。これが最後だって分かってる。だけど、もしかしたらって希望は捨てたくないんだ。希望がなくなってしまったら、俺は生きる意味さえ失う。
「ごめんね」
「言うな。こうなることは分かってた。お前のせいじゃない」
これが最後と重ねた唇は、いつも通り柔らかくて、少し震えていた。
今すぐ奪い去りたい。そんな気持ちはあっても実行できるかは別の話だ。
「俺こそごめん」
「あっくんのせいじゃないよ」
「じゃあ……」
「さよならは言わないで。またいつかがあるって信じたいから」
「分かった」
彼女が俺と同じ気持ちだと知って、抑えていたものが溢れそうになった。
俺たちは最後に握手をすると、互いに背を向けて新しい道を、二人違う道を歩き始めた。
(完)
12/4/2024, 5:12:14 AM