『手ぶくろ』
冬の夜は、特に突き刺すような冷たさが痛い。心まで冷え込んで、凍りついて、おかしなことばかり考える。このまま誰にも知られずに消えたら、凍った私を探して助けてくれるひとはいるのかな、なんて。こんなことばかり考える私に優しい人なんていないってことくらい、わかりきっているのに。
「あ、ねえ。電車乗って帰る?」
後ろを向くと、寒さに顔を赤くして笑う彼がいた。静かに頷くと、一緒に帰ろうと言ってくれた。なんだ、きっとこのひとなら──あまり考えたくないことを考えた。彼の他愛もない話に耳を傾け、嫌なことを忘れられるように、少し大きめにリアクションをする。手が痺れるほど冷たくなっている。
「あ゙ーっさむ!!てか手寒くないの!?」
「いや、凍りそう」
「えちょっと触ってみてもいい?」
「うん、」
彼は手ぶくろを外して、私の手に触れた。すごく、すごく温かい。思わず涙が溢れそうなほどだった。人の温かさって、すごい。体も心も温める。あまりに素敵だ。
「冷たすぎ!もうおれの手ぶくろ貸すからこれつけてな」
「……いいの?ありがとう」
「いいよ。あ〜おれ優し〜〜」
彼の大きな手ぶくろに、私の手をはめた。あまりに大きくて、指先は行き場を失っている。余った部分が多いのだ。この何とも表現しきれない違和感。ぎこちなく自分の手をぎゅっと握る。そしてゆっくり開く。そして思う。きっとこれでは、温まることはないだろう。
ねえ、あなたの手で温めて、って言ってもいいかな。
12/27/2024, 2:05:55 PM