中宮雷火

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【涙の理由】

目黒区の総合病院は15件か…。
私は目黒区行きのバスに乗りながら、スマホで調べていた。
この中に、オトウサンが入院していた病院がある。
私は溜息をついた。
全部行くには時間もお金もかかりすぎる。
私はすごく後悔している。
何も準備ができていないのに、いきなりオトウサンが入院していた病院に行くなんて。
そもそも私はオトウサンが入院していた病院すら知らないのに。
日記をいくら読んでも、「目黒区の総合病院」ということしか分からなかった。

バスを降りると、目の前に大きな病院が見えた。
まずはここ。
ここに行ってみる。

20分後。
私はとぼとぼと病院を出た。
ここはオトウサンが入院していた病院では無かった。
これは途方も無い旅になりそうだ。

次に訪れたのは、先ほどから20分ほど歩いたところにある病院。
ここに行ってみる。

15分後。
ここも違った。

その後も2件ほど訪問してみたがどちらも違った。
住宅街を独り歩き、私は「次はどこへ行こうか。」と考えていた。
考えていたのだけど。
不意に立ち止まった。
なんだか、泣きたい。
やっぱりこの家出は間違いだった。
素直にお母さんの言うことを聞いていれば、こんなに惨めな思いをせずに済んだのに。
視界が滲む。
涙の理由に脳が冷えていく。
素直に上をみあげられなくなって、涙が零れそうになったとき、
ポツリと何か冷たいものが当たったような気がした。
思わず上を向くと、雨が降ってきた。
あ、傘。
忘れた。
私は小雨をただ受け流すことしかできなかった。
しかし、我に返って「雨宿りしなきゃ」と思い、住宅街を駆け抜けた。

近くにカフェがあった。
ここならちょうどいい。
まだ昼食を食べてないし、ここで何か食べよう。
私は扉を開けた。

店内は木造でレトロな内装だった。
席に座り、メニュー表を手に取った。
あまりにお金を使いすぎるといけないから、高い値段のものは頼めないな。
飲み物はお冷やでいっか。
メニューを注文して、しばらく店内を眺めていた。
この雰囲気、何だか家の近くの楽器店に似ている。
このアットホームな雰囲気。
少し近いものを感じる。
まあ、あそこは潰れてしまったんだけど。
外は雨が強く打ち付けている。
しばらくぼうっと店内を眺めていたけれど、ふとある考えが浮かんだ。
オトウサンの写真の中に、病院の写真は無いだろうか。
私は日記しか見ていなかったけど、もしかしたら写真にもヒントがあるのでは無いだろうか。
もっとちゃんと見てみないと。
私は鞄の中から写真を取り出し、机の上に並べた。
風景写真、家族写真、学生時代の写真、…
あっ。
私は見つけてしまった。
ある建物の写真、病院らしき建物の写真を。
名前は見切れていて見えないが、
「山総合病院病院」という文字があるのが分かる。
私はすぐにネット検索をした。

中山総合病院。

これだ。これだ!
私は静かに興奮した。
場所も目黒区で間違いない。
ここに、オトウサンが居た。
届いたミニパンケーキを頬張りながら、私は必死に調べた。
ここからバスで20分。
十分行ける距離だ。

腹ごしらえをして店を出た。
雨は止み、曇り空を広げている。
涙もとうに枯れきった。
私は立ち止まっていた足を踏み出し、目的の場所に向かった。

10/10/2024, 11:47:56 AM