カランコロン
ドアベルの音が響き渡る。
思ったより音が大きくて、ドキッとする。
陽気なクリスマスソングが、店内を満たしている。
しゃんしゃんと、ベルの音が、背景の背景で穏やかに流れている。
案内された席に座って、外を眺める。
雨が小さく降り注いでいる。
結露に覆われた窓のそばには、やたら甘ったく美味しそうなホワイトチョコレートのパフェの広告が貼り付けられている。
コーヒーを待ちながら、カフェの入り口を見つめる。
ベルの音を待ち侘びる。
今日は約束の日なのだ。
私がここへやって来たのは、バイトのためだった。
来たる25日のための。
毎年、24日から25日の夜は、バイトに出る。
仕事内容は簡単に言えば、運び屋だ。
物の仕分けと、配達と。
ベルの音に見張られながら、法律など知らぬふりをして、大量の荷物を届ける。
夜通しそんなことをするバイトだ。
人に見られてはいけないし、見つかってもいけない。
痕跡を残すのもNGだ。
厳しくて難しい仕事だが、私は毎年、この仕事を受ける。
そのために、私はここに来た。
待っているのは恰幅の良い、白い髭を生やしたあの人だ。
私は毎年、一週間前に北欧のこのカフェに訪れる。
24日から25日のバイトに応募するために。
荷物を運ぶために。
やってきたコーヒーを飲みながら外を眺める。
雨が止んでくれればいいのに。バイト当日が悪天候だと、仕事はとてもキツイのだ。
カランコロン
ドアベルの音が鳴る。
待ち人はまだ来ない。
私の待ち人の雇い主は、甘いものが好きだから、あの広告のパフェも好きかもしれない。
そう思いながら、コーヒーを啜る。
奴は、私よりずっと年上で体も大きいのに、仕事の影響か、苦いものや渋いものが苦手なのだ。
そして、甘いものや油濃いもの…つまり、子供の好きな食べ物が大好きなのだ。
私は甘いものも油濃いものも苦手だ。
だから、彼が食事をするのを眺めていると胸焼けをする。
今日も彼は甘いものを頼むだろうか。
パフェでも頼んでおいてみようかな、そう思いながら、ペラペラとメニューを捲る。
毎年のことだが最近は買い出しで忙しいだろうから、ゆっくり待つか。
そう思いながら、私はドアベルを見つめながら、耳を澄ます。
ベルの音が空から聞こえくるのを聞き逃さないように。
カランコロン
カフェのドアベルがまた鳴る。
私は待つ。コーヒーを啜りながら。
25日の雇い主、サンタクロースを。
しゃんしゃん。
カフェの店内に、陽気なベルの音が鳴り響いている。
12/21/2024, 9:23:43 AM