黒猫と青のリボン

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部活からのいつもの帰り道。それは、今日は風が強くてペダルも何処となく重たいなぁ、早くソファで寝転がりたいなぁと、ふと目線を下げた時だった。茶色の中々の質量がある、単一電池をほんの少し伸ばしたぐらいの大きさの触覚を生やしたヤツと目と目が合った。
私の胸元寄りの腹あたりにバッタなのかイナゴなのかは分からないがそれ系統の虫がいたのだ。
咄嗟に私の脳内に"何か少しでも衝撃を加えたら私の顔面目がけて飛んでくるかもしれない"という危険予測が駆け巡る。
あっ、あっ、あーーーーー!!!
声には出さなかったが心の中の叫び声でさえも人間の言葉を喋れなくなってるくらいのパニックofパニック。
足は止めない。少しでもさっきまでとは違う行動をとればヤツは何かを察して顔面に飛びつくかもしれないからだ。
服をパタパタさせてるのも論外だ。絶対顔面に向かってジャンプをしてくる。そうに違いない。こういうときの悪い予感はいつも当たるんだ。紛れもなくコイツは私の顔面を狙っている。今は悠長に服に張り付いているだけだが、恐らくヤツの最終目標は私の顔面めがけて飛ぶことだ。
ヤダ…もう泣きそう。
家までの距離は後もう少し。近いようで遠いこの距離が憎い!!
今にも立ち漕ぎをして速攻で家に着きたいと思うが、立ち漕ぎに変えた途端絶対襲いかかってくるはずだ。あまりにも危険がすぎる。正直、帰路の途中に何度か立ち漕ぎをしていた記憶があるが、ヤツがいつからそこにいたのかを把握していない私ではその危険度が高い選択肢は選べない。大人しく今の体制をキープしながら家を目指すしかないのである。
だがしかし!!
貴様は今は私の優位に立っているつもりかもしれないが、家に着いたのなら時期にそれもひっくり返る。
家に着いたら私には虫など屁の河童なお爺がバックについているのだよ。お前の野望は形をなさないまま終焉を迎えるのだ!ざまぁないぜ!!今のうちに恐れ慄く私の姿を見て愉悦に浸っているが良いさ!ふはははははははは!!!

虎の威を借る狐とはまさにこのこと。

その後ヤツは一度も動くことなく無事に一緒に帰宅を果たし、優しいお爺のゴッドハンドによって野に放たれた。
こんな心臓に悪い相乗りはもう懲り懲りだ。

8/14/2022, 12:25:00 PM