あの日の温もり
しんしんと降り積もる雪を窓辺で眺めながら冷えた部屋で両手を擦って温める。
焚いたはずの暖房はこんなにも雪に覆われた山中の一軒家を暖めるには足りないようだった。
室内温度は10度を行くか行かないか。
外に出れば濡らしたタオルはすぐに氷のように冷たく固まってしまう、そんな夜だった。
冬はあまり好きではない。
土地柄、どうしても骨身に染みるような寒さになるこの土地で一面見渡す限りの白に埋め尽くされてしまうと
まるで真っ白な世界に飲み込まれてしまう気がする。
一面の銀世界は美しさに輝きながらも、人の身では決して敵わない自然の脅威を物語る。
そういえば。
ふと思い出した懐かしい話。
世界にはたくさんの神様がいるけど、雪の神様は日本にしかいないんだって。誰が言ってたかな。
世界にたくさんいる神様の中で雪に神様を見出すのは八百万を神として大切にする日本人らしい感性ではないか、そんな話を祖母としたんだったか。
年月を重ねたシワに苦労と慈しみを満たした手で幼子の頭を撫でながら身の回りの何もかもを大切にした。
あの手が作ってくれた大根の温かいスープの美味しさが充したのは子供心にお腹だけではなかったようだ。
窓の外では降り止むことがなくしんしんと雪は降り積もりつづける。
なんだか懐かしい味が恋しくなってきた。
いまだに祖母のあの優しさに満たされた温かい手に届かないがこの凍えた手を揉みながらスープの再現に挑戦してみようか。
悴む体をぐいっと伸ばして大根はあったかしらと一人ごちながら台所に向かった。
3/1/2025, 4:16:12 AM