届かないのに 糸 雨の香り、涙の跡 です
届かないのに
どうして、僕の願いは届かないのに、君の願いは届いたの?
君よりも、僕の方が、叶えたい気持ちは強いのに、僕には良い知らせは届かない。
「でも、願いが届くまで諦めるものか」
いつか願いは届く。そう信じて、抽選販売の受付をしたのだった。
糸
「運命の赤い糸。ってあると思う?」
映画を見た帰り、カフェで映画の話をしていると、そう聞かれる。
「映画では、赤い糸に導かれ…って言ってたでしょ?実際にあると思う?」
興味津々といった様子で俺を見つめるキミに
「あると思うよ」
間を開けずに、俺はサラッと答えた。
「え?」
俺の返事に驚いたように、キミは目を瞬かせる。
「ん?信じてない。って言うと思った?それとも、考えもせずに答えたから、びっくりした?」
ふふっと笑うと
「ああ、うん。どっちもかな」
キミも、ふふっと笑う。
「俺はさ、俺と関わった人。全員が、運命に導かれて出会った。と思ってるんだ」
「…そうなの?」
「うん。だって、地球上に大勢いる人の中で、俺と関わるんだよ。運命じゃなければ何だろうって。すれ違っただけ。とかなら偶然なんだろうけど」
「ああ、なるほど」
「だから、運命の赤い糸はあると思ってる」
「そっか。ステキな考えだね」
俺の話に微笑むキミに
「ところでさ、その大勢いる人の中で、俺と趣味が一緒で、話が合うキミと、赤い糸で結ばれてるんじゃないか。って俺は思うんだけど、キミはどう思う?」
にこにこ笑って問いかけると、キミは顔を真っ赤に染めるのだった。
雨の香り、涙の跡
「行ってくるね」
「うん、気をつけて」
笑顔で手を振り、半年間の出向に向かうあなたを駅で見送る。
「…帰らないとね」
いつまでも、ここにいても仕方ない。そう思い、家へと歩き出すけれど、これからのことを思うと、自然と涙がこぼれる。
「今は赤ちゃんを預かってもらっているけれど、家に帰ってから、出向が終わるまで、私が1人で赤ちゃんと過ごさないと…」
いや、そんなことじゃダメだ。と、不安を心の奥にしまい込み、涙の跡もそのままに歩いていると、ポツポツと雨が落ちてくる。
「え、雨?」
俯いて歩いていたせいで気づかなかったけれど、空はどんよりとした雲に覆われている。
「急がなきゃ」
濡れないようにと家まで走ると、着いた頃には、雨の香りは遠ざかり、涙の跡は、雨で消されていた。
「あ…」
空が明るくなると、大きな虹が視界いっぱいに広がる。
「…頑張ろう」
涙の跡を消すように降り、空で輝く大きな虹に励まされたように感じ、頑張ろうと思うのだった。
6/20/2025, 9:26:17 AM