イスカ

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『いつまでも捨てられないもの』


 その子は、私の大切なおともだち。


 やわらかく、あたたかな色をしていた貴方。いつも撫でていたその毛並みは、気付けばすっかり色あせて、毛先も少し乱れている。
 毎日抱きしめて眠った貴方のふわふわな体も、今となっては綿が縮んでくったりとくたびれていた。

 貴方ってこんなにも小さかったっけ?

 昔はからだいっぱいに貴方を抱きしめていたというのに。

 いつの間にか私の背はグングン伸びて、貴方との距離も遠ざかってしまったみたい。

 私が彼との新居に引っ越す時も、貴方はお留守番だった。…真っ暗な部屋の中で、貴方は一体何を思っていたのかな。 

 
 だから、まだ幼い娘にぎゅっと抱きしめられている貴方を見たとき、なんだか泣きそうになってしまったの。

 お母さんが孫の為にと洗ってくれた貴方。なんだか目がくりくりしていて、随分さっぱりしているみたい。娘はそんな貴方を腕をめいいっぱい伸ばして抱きしめていた。
 
 その光景が愛おしくて、胸がぎゅっとなる。

 ───ねぇ、その子はね。ママの大切なおともだちなの。ママが寂しいとき、楽しいとき。いつもママと一緒にいてくれた優しい子。
 
 だから今度は、あなたがこの子の新しいおともだちになってあげてほしいの。めいいっぱい、その子を抱きしめてあげて。大切にしてあげて。愛してあげて。

 だってその子は、いつまでだってママの大好きなおともだちなんだから。

8/17/2024, 2:42:11 PM