「いくな」
戦闘の最中、戦闘不能になった仲間達が足元に転がる中、突然後ろからマフラーをギュッと掴まれ、pokaは後ろに引っ張られた。
「何だよアーティ、邪魔すんなよなー」
「…飯田橋と呼べと言ったはずだぞ、金剛。」
背伸びしてもpokaの膝ぐらいの身長しかないアーティは、必死に自分のマフラーを腕のように使ってpokaのマフラーを握り、引き止める。
事故で両腕を失くしてしまった、才能溢れる画家にもう一度筆を握ってもらうために”poka”が用意した代替品だ。
失くしたモノの代わりがある。実際その腕でアーティは大好きだった絵が描ける。魔王を倒してもエンドロールが流れることは無く、冒険は永遠に続き、退屈することも命を落とすこともない。そんな”夢のような空間”で、兎のような容姿の彼…”飯田橋 進”は一体何を躊躇っているんだろう。
「現実世界での君は”飯田橋”かもしれない。でも、ここでの君は”アーティ”なんだよ。わしが”poka”であるようにね。」
「違う。お前は”金剛 日向”だ。いい加減目を覚ませ。」
「あ、10円みっけ」
「話を聞け」
マイペースで自分勝手なギャンブラーの彼は、基本人の話を聞かない。
「…いつまでわしのマフラーを引っ張るおつもりで?」
「お前が”それ”をしまうまでだ。」
pokaの手にはいつものハンマーやコインではなく、よく尖ったロザリオが握られている。
「これが無いと皆を蘇生できないんだが??」
足元に転がる味方の屍と、恐らく次のターンで死ぬであろうボロボロのアーティと自分を見てpokaは言う。
pokaのスキルの1つである”オールイン・リザレクション”には、自分を犠牲に味方全員の蘇生と回復をするという効果がある。この世界には命という概念はないが、ゲームのようにHPが尽きれば擬似的に死ぬ。戦闘に勝つには、とりあえず味方を復活させる必要がある。それをわかっているのに、アーティはpokaを引き止める。
「他のやり方があるだろう。我が蘇生薬を描けば…」
「描くのはいいけどそれを具現化するMPが無いでしょ」
「…我が描かなくとも、アイテムを使えば…」
「蘇生薬は全回復しないし、仮にそれでアタッカーのミクスやルイを復活させてわしらが死んだら全員戦闘不能でゲームオーバーだよ」
「……だが、」
普段冷静で合理的な判断をする彼らしくもない。
「だーかーらー、わしがオルリザすれば何とかなるんだって。アーティも全快するんだから、それからわしを復活させてくれればいいじゃん?」
その方が効率がよく、勝率も上がるはずだ。
なぜ彼は、アーティは止めるのだろうか。
「というわけだから、離して?」
「…いかないでくれ」
「は?」
「これ以上、我はお前が犠牲になるのを見たくない」
珍しく彼が感情を吐き出した。覆水盆に返らず。
アーティはそのまま小さな子供のようにぽろぽろと涙を零しはじめた。
しかし、黄金色のマフラーはその手をすりぬけて。
「”オールイン”!!」
自身の左胸にロザリオを突き刺した。
__ピカッと光った瞬間、辺りに心地よい、金色の雨が降る。
死んだ仲間達が目を覚まし、再び目の前の強敵に突っ込んでいく。
「何してんだアーティ!早くpokaに蘇生薬を!!」
「…あぁ」
…pokaはここを”楽園”と呼ぶ。
まるで縋るように。宝物のように。
「…逝かないでくれ……」
身勝手な神様の死体に蘇生薬を流し込みながら、アーティはもう一度想いを零した。
10/25/2024, 5:13:50 AM