「ここはどこだ?」
そこは旅立ってから5番目に着いた街。
おおらかで、街全体がまるで祭りのようににぎわっているところだった。
端から端まで、小さな町三つ分はあろうかというこの街は、しかし地図に載っていなかった。ここまで大きな街であれば、地図にくらい載っていてもいいだろうに。
「勇者よ! おれカジノってとこに行きたいな!」
「わたしはあそこのブティックというのを見てみたいわ」
パーティーの面々が街のにぎやかさに誘われるように浮足立っているのが分かる。
それは勇者も同じだった。
「そうだな。街の散策もしないといけないし……よし、三時間後にここに集合しよう! それまでは各々好きなところを見て回るといい!」
パン、と勇者が解散の合図を出す。
めいめいに散っていくのを見た魔導士は溜息をついた。
パーティーの中でただ一人、浮かれていないメンバーだった。
「こんなに禍々しい気配に満ちているのに、どうして誰も不審に思わないのでしょうね……」
/8/25『見知らぬ街』
遠くで雷が鳴っている。
まるで俺らの旅立ちを祝福しているようだ。
空は黒い暗幕が垂れている。
雷鳴が村の向こうで聞こえる。
「幸先が悪いな」
村の誰かが言った。
暗雲が立ち込めているだけで幸先が悪い?
何を言っているんだ。
俺らは今から何をしにいくと思っているんだ。
立ち向かっていくようでちょうどいいじゃないか。
魔王討伐に向かう勇者パーティーの俺らは荷物を携え、遠雷響く暗雲の方向へ向かっていった。
/8/24『遠雷』
8/25/2025, 7:57:53 AM