サンザカ カイリ

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【滲む前に】

涙が頬を伝った。やけに痛かった。
こんなにも狭くて綺麗とは言えない空間が、私にとって唯一の孤独だ。
喉を必死に塞いでしゃくるのを抑え込む。
こんな場所で崩れている自分を抑える必要なんてないのに、依然として身体に刻まれてしまっている。
音もなく滴り落ちていくのも構わないままいつもの場所に座り込んだ。

おとといはあの人を怒らせた。昨日はあの子に迷惑をかけた。今日はやるべきことができなかった。
探せども探せども、掘り起こされるのは失態だ。
どんなに泥まみれになって必死に光を見出そうと、中から出てくるのは黒くてどろどろとした後悔ばかりで、ただいたずらに自分を汚すだけだった。
「あぁ、もう駄目だ…」
こうも部屋が静かだと負の感情がその存在を示すように這い出てきてしまう。

床に転がっていたリモコンを拾い上げ、スイッチを入れる。目に飛び込んできたのは爽やかな笑顔のニュースキャスターだった。
「明日の朝はスッキリとした晴れ模様になるでしょう!カーディガンを1枚羽織っておくと安心です。」
明日は天気がいいのか…
あとで着替えを用意して、朝ごはんは残り物のカレーにして、玄関のゴミ袋をなんとかしないと…
そこまで考えると、ピタリと思考が止まった。
明日が来たらまた今日みたいにひたすらと反省するんだ。
明日なんて来なければいいのに。
"これから"に関係するもの全てが忌々しくて、酷く恐ろしい。
もう逃げようかな。
私の代わりは沢山いるんだもんね。

ピコン

突然足元が光る。伏せてあったスマホを覗くと、そこには母からの連絡があった。
「最近どうしてるの?あんたはちょっと不安定な所があるからお母さん心配してるよ。ちゃんとご飯は食べてるの?」
母からの連絡は、全部を透かして見ているかのようだった。

ぐしゃぐしゃに崩れた顔を拭いながら空いた手でメッセージをうつ。
「今辛くて、お母さんに会いた」
「お母さんに会」
「今度帰ってもいい?」
今この瞬間が滲んでしまわないように、何度も打ち直した。


紙飛行機の形をした矢印に触れようとしたところで、落ちた雫とメッセージが混ざり合った。
ここで甘えたら全てが崩れてしまう。
今は、誰かに頼るのが怖くて堪らない。

「全然元気だよ!お母さんも体調大事にしてね!」
少しの間、その言葉から目が離せなかった。

お母さん。お母さんは私が今泣きながら生きていることを見透かしているのかな。
私が毎日隠れて気持ちが暴れないようにしていることを知ってしまっているのかな。
私は泣いてないよ。うまくやってるよ。昔みたいにお母さんを困らせたりしてないよ。


お題:泣かないよ

3/19/2026, 1:00:42 AM