海月 時

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『お元気ですか?』
窓際に降り立った彼女は、相も変わらず綺麗だった。

「別れよう。」
「お家からの命ですか?』 
「うん。君の話をしたら釣り合わないって言われた。」
「そうですか。ならば仕方のない事ですね。貴方はこれからどう生きるのですか?」
「分からない。」
「そうですか。では、お別れしましょうか。」
「うん。ごめんね。君に良い事がある事を願うよ。」
「私は…。いえ、何もありません。…さようなら。」

俺は最近同じ夢を見る。三年前の夢。当時付き合っていた彼女は、俺の初恋の人だった。でも、別れた。家からの圧に抗えず。
「彼女を振らなければ、今頃彼女はまだ…。」
その時、窓が叩かれる音がした。カーテンを開けると、そこには翼を生やした彼女が微笑んでいた。
『お元気ですか?』
「何で、…君はもう居ないはずなのに。」
彼女は三年前に自殺した。それなのに何故?
『貴方は今、笑えていますか?』
「…笑えてないかも。」
『その様子ですと、まだお家から敷かれたレールを歩いているのですね。』
「楽しい道ではないけど、安全で楽だからね。」
『ならば、貴方が私に告白して下さった事は、かなりの冒険だったのですね。少し嬉しく思ってしまいます。』
「うん。本当は君ともっと一緒に居たかった。」
『別れの日、私が何か言い淀んだのを覚えていますか?』
「覚えてるよ。」
『あの時の続きを言いに、今日は来たのです。』
彼女は真剣な眼差しで、俺を見つめた。
『私は貴方と見る景色が、世界で一番大好きでした。以上です。…そろそろ帰りますね。さようなら。』
そう言い、彼女は月明かりを受け、消えていった。

もしも彼女を振らなければ。もしも家よりも彼女を優先していれば。後悔と憶測は頭を飛び交う。今からでも自分を生きれるだろうか?生きれたのなら、声を大にして言おう。君と見た景色について。

3/21/2025, 11:08:12 AM