悪役令嬢

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『病室』

「これは一体どういう事ですの」

街で謎の疫病が流行っているとの報告を受け、
原因を解明するため診療所を訪れた
悪役令嬢と執事のセバスチャン。

病室は高熱や下痢、嘔吐を訴える患者で
ごった返していた。
涎を垂らしながら激痛に喘ぐ者、
神への祈りを唱える者、医者たちは
人手不足でてんてこ舞いの状態。

「どうやらただの食あたりではないようだ」

聞き覚えのある声に振り向けば、
悪役令嬢の兄ウィルムが立っていた。

「領地に駐在している兵士たちの中にも
同じ症状を訴える者が出始めている」

事態を重く見た伯爵は、直ちに軍医団の
派遣を命じて、患者たちへ血清の投与を開始。

悪役令嬢とセバスチャンは早速、
患者の家族に聞き取りを行った。

「皆、先日の祭りで配られたプディングを
口にしているようですね」

「プディングを作った店へ向かいましょう」

街で有名な洋菓子店へ赴き、
店主に事情を聴くと、自分の店が
原因ではないとの一点張り。

「うちは商品を出す前に従業員共々味見をして
ますが、そんな症状は見られませんでしたよ」

「とりあえず店の中を見せてください」

半ば強引に中へ押し入ると、そこには想像を
絶する光景が広がっていた。

鍋の中を走り回るネズミ。ネズミの糞尿
だらけの床、天井裏に散乱するネズミの死骸。

思わず口元を押さえる悪役令嬢と、店内の
様子から状況を把握したセバスチャン。

「なんて不衛生極まりないのかしら……」
「──おそらくネズミの糞が菓子に混入した事が
菌の繁殖に繋がったのです。従業員たち
が無事だったのは、作りたてを味見したから
でしょう」

常温で置かれた商品から菌が増殖し、
それを食べた人達が病を発症したのだ。

翌日、領地の人々による
緊急会議が開かれた。

「食品衛生法の改正が必要ですわ。食品を扱う
者があのような杜撰な管理をしていれば、
また同じような事件が起きますわ」

「定期的な店舗査察も効果的かと」
セバスチャンが補足する。

「地域全体の消毒も実施しよう」
ウィルムが付け加える。

「村人たちの協力も仰ぎましょう。例えば、
ネズミ1匹につき5ペインで買い取る制度
を設けるのは如何ですか」牧師が提案。

伯爵が深く頷く。
「良い案だ。早速取り掛かろう」

こうして、対策が次々と実行に移された。

悪役令嬢とセバスチャンは衛生指導を、
ウィルムは消毒作業の指揮を、牧師は
村人たちへの励ましと協力の呼びかけを担当。

ネズミの買取制度は予想以上の効果を発揮
し、村人たちは熱心にネズミ捕りに励んだ。
数週間後、ネズミの数は激減し、新たな感染者
も報告されなくなった。

問題の発端となった洋菓子店は閉店し、
店主は別の地で新たな商売を始めたらしい。

かくして皆の協力により、領内から疫病の
脅威が去ったのであった。

8/3/2024, 6:00:19 AM