桔花

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・鋭い眼差し
冷たい、それでいて貧弱そうな檻。ふとそちらを見てしまったばっかりに、鋭い眼差しが、僕を捉えた。
ぞくり、と背筋が寒くなる。よく手入れされた、ふわふわの毛並みと、丸みを帯びた愛らしいフォルムには、あまりにも不似合いな視線だった。

「わー、かわいいー!」
「この子はおとなしいのでおすすめですよー!」

店員に抱き上げられている子犬もまた、同じ鋭い目をしている。
選んでいるのは、僕らじゃなくて、きっと彼らのほうなんだろう。
急にドクドク脈打ち始めた心臓を抑えて、僕はもう一度、檻を覗き込む。
わんっ!
バカな小僧っ子だな。さあ、好きに連れて行け。

そう聞こえた気がしたのは、たぶん気のせいなのだろう。

10/16/2023, 10:32:43 AM