「どうして?」
ぱちくり、と音がしそうなほど大きな目を瞬かせて、少女は少年に問うた。
「だから、だめなんだ。僕と君はもう一緒にはいられないんだよ。」
少年の家は裕福な中流階級の家庭だった。つい先日までは。
よくある話だ。父親の事業が失敗し、本人はそのまま首を吊ってしまった。
母親はショックで倒れ、生活はままならない。
少年は学校を辞め、親戚の工場へ奉公に出なければならなくなった。
それだけの、陳腐なよくある話だった。
「わからないわ。お家が近所じゃなくなっても、学校で会えなくなっても、会いに来たらいいのに。私だって会いに行くわ」
お馬鹿さんねえ。そういって無邪気に笑う顔が眩しい。
苦労なんてなんにも知らない顔だった。
それが可愛くて、愛しくて、憎らしい。
少女の家も裕福な家庭だ。学校にも通っていない、格の違う家の男に会うなど許されるはずもなかった。
「会うことは許されない。君が幸せになるためだよ。そして僕が幸せになるためだ」
なおも拒否をする少年に、わからずやね、と言わんばかりに少女は鼻を鳴らした。
「あなたが私に会えなくて幸せになることなんてありえないわ。ねえ、一言助けてって言えばいいの。あなたの幸せはどこにあるの?正直に答えないと許さないわ」
少女がいたずらっぽく尋ねる。
少年は一度くしゃりと顔を歪ませ、しかしそのまま無理やりに笑ってみせた。
この子の夢が、このまま覚めなければいいのに。
少なくとも、今だけは。
「―――それは君とゆく、この道の、先に」
7/3/2023, 3:18:20 PM