Kanata

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 その絵には、色とりどりの翼が描かれていた。
 キャンパス一面に、翼を広げる鳥。赤に桃色、橙色に黄色、緑に紫に青色。虹色に輝く翼を持つ鳥が、海の上をたった一羽、孤独に、力強く羽ばたいていた。
 私は圧倒された。なぜだか涙ぐみそうになるのを必死に堪えた。

 絵の下に小さく添えられたプレートに、作者の名が表示されている。このプレートにわたしの苦手な彼女の名が載っていることは知っていた。
 同じスタジオアート専攻の彼女。影が薄くて、いつも周りに合わせて無難なことを言う。誰かの顔色を伺って作ったような笑顔に、少し震える指先。周りはやさしくて良い子だというが、私は彼女が苦手だった。

 ほらね、やっぱり。そうだと思ってた。彼女は彼女の世界を隠し持っている。それは、私には圧倒的に辿り着けない世界だ。
 彼女の描いた世界はとてもカラフルだった。虹色の翼で、今にもどこか空の彼方へ飛び立ってしまいそう。追いかけたいのに、追いつきたいのに、追いつけるかもしれないという希望すら持たせてもらえない。

 このまま飛んでいけばいいのに。作り笑顔を見ているよりずっといい。追いつけなくてもいい。
 その虹色の翼で、飛んでいく姿が見たいのだと私ははじめて自覚した。


『カラフル』

5/1/2024, 12:07:03 PM