しゅら

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夜景

 子供の頃の感動を今でも覚えている。
 私の住んでいた街の自慢は満点の星空。澄んだ空気と灯りのない地域。空の高さも、星の輝きも、はっきりと分かった。何度星空を見上げたか、何度手を伸ばしたか。
 ある日、両親に連れられて花火大会へ行った。家から車で30分。会場も田舎だけれど、全国から訪れた人々でごった返していた。人ごみに酔いながら見上げた夜空の大輪は私の脳裏に焼きついた。
 小学六年生の終わり、友達の家族と卒業旅行をすることになった。行き先は函館。函館山から100万ドルの夜景を見下ろして息を呑んだ。写真じゃとても味わえない感動。なんて綺麗なんだと子供ながらに思った。
 大学に入学し、一人暮らしを始めた。夜に都会の夜景を見渡せる郊外に部屋を借りて。たまに夜に散歩をすると、その美しさをいつでも見下ろせた。宝石のようなそれは私を惹きつけてやまない。
 私は現在、都心に住んでいる。必死に働き、お金を手に入れ、夜景の中に住んでいる。高層ビルも、展望施設も間近にあって、夜景を見下ろすのにはもってこいだ。

 私は何度も夜景を見下ろし、その正体を知った。いつしか夜空を見上げなくなったことを思い出した。だけど光に近づけて、私はどこか満足している。
 時折、子供の頃の感動を思い出しては寂しくなるのは何故だろう?

9/18/2024, 7:02:45 PM