あにの川流れ

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#冬休み


 ウィーーーン……ブォーー‼
 バタバタ、バタバタ……
 ガチャ、トンっ、……ズリズリ……

 「終わりましたー!」
 「オッケー、こっちもカンペキ! 朝からお日様たっぷりでとってもいい感じ!」
 「すばらしい! 手伝います。脚は組み立てたので、あとはモノですよ」
 「んふ、もうね、ぜんぶ、隙がないくらいに考えてあるの。バッチリ。……デザイン性はいる?」
 「いいえ。もう、利便性を突き詰めましょう」
 「だと思った」

 トン、トン、……ゴトンッ。
 ガチャン、コト、コト、……バフン!

 「ふふ、完成しましたよ……!」
 「んふ、すっごく最高」

 カチ…………じわぁ~~~。

 「やっば、あ゛ぁ~~吸い込まれる……」
 「魔窟ですよ魔窟。一生出られまふぇん」
 「この日のためにね、生きてるって言うべき。冬なんてね、このせっっまい空間で暖をとるのが醍醐味で真理なんだから」

 透明なガラスの向こうは、立派な青天井。
 ある国では珍しく、どんなに寒風が上着をすり抜けて最後の砦の皮膚が震えても、外にチェアを置いて日光浴をするらしい。死活問題ととなりあわせ。それを聞けば、なんだか罪悪感でつつかれる?
 まさか。
 余計に使命感にかられてしまう! ぽかぽかになって肺いっぱいのあたたかさ。人類の叡智がつまった人工的な熱。それに包まれて惰性で息をして。
 これほどの怠惰はむしろ贅沢に人を満たす。満たして満たして、溺れていって。抗わないほうがぜんぜん楽しいし、抗いたくもない。

 何でも手に届く範囲。ちょっと遠いものは、孫の手でちょいちょいと引っ掛けて。
 至極、至福、極楽!

 「ねー、テレビ、チャンネルかえていい?」
 「ちょっ、わたくし正解考えてるんですから、最後まで視させてくださいよ」

 「7巻読み終わりましたー?」
 「んー……あと十分待って。アッ、やべ、画面汚れた……」

 「おミカン剥いてー」
 「じゃあ、揉んでください」

 「ブッハっ、ね、このショートめっちゃ笑える! 見てっ、見て見てッ!!」
 「近ッ! 見えません!!」

 「熱燗しますけど、のみます?」
 「えー? 玉乃光ならのむー」

 「この小さい冷蔵庫、スタメン入りですね……アッ、ダッツ入ってる」
 「もうちょっと溶かすんだから、たべちゃだめ!」

 「ん……? え、足の裏がめっちゃ気持ちいいんだけど」
 「ふふん、ちょっと奮発してジェラピケ買っちゃいました! とっても気持ちいいです」

 夏が明けたくらいから、したたかに画策してきた。冬季休暇をすり合わせ、ほしいものをピックアップしておく。冬物が出回った瞬間に、目をつけていたものを実物で吟味して。
 去年の反省や湧いた欲望を反映。
 毎年、至極は更新されて。

 熱のこもった布のにおい。
 背中にストーブを当てながら、カセットコンロに載せた鍋をつついて。
 大分、早めのお夕飯。

 「ねーえー、正解なんて、調べれば一発だよぉ」
 「醍醐味ぶち壊しじゃないですか」

 またゴロリ。

 「あ゛〜〜もう、食べらんない……」
 「ちょと、このあと、メインの和牛食べるんですよ? 残しておいて、って言ったじゃないですか」
 「だいじょぶ、だいじょぶ、寝たらおなかすくからね、ぜんぜんへいき」

 ふと忘れていた窓の外。
 あの晴れ間はどこへやら、しんしんと。小粒が大粒に、透かしが入ったきれいな模様。
 ぼと、ぼと、ぼと……
 なんて、宇宙飛行。チケットは銀世界ゆきだったらしい。

 「雪が、けっこう積もりましたね。まだ降ってますよ」
 「えッ」

 がばりと起きて。

 「ちょっと、こんな惰性でのんびりしてる場合じゃないよ! 冬なんてね、雪にまみれてなんぼなんだから! ねえ、コートって雪に強いっけ?」
 「ふふ、ばっちり防水済みですよ」
 「やん、最高! 電源せんぶ切って! カイロかしゃかしゃして! 無限雪だるまつくろ!」
 「雪合戦って、氷アリでしたっけ?」
 「ナシだよッ!」

 せっかくあたためた身体を、深雪に晒して。キュッキュッと澱粉を踏み固めるような。スノーブーツの跡、大の字の跡、ずった跡。
 銀色の新世界が、どんどんと貪欲にカスタマイズされてゆく。



12/29/2022, 1:42:47 AM