新緑の季節。遊びに行くのであろう子供達の声が聞こえてくる。鳥のさえずりが聞こえ…なんてよくある物語のようなことはなく、車の走行音や、たまに聞こえる自転車のブレーキ音。音響式信号機が青を知らせる音……。都会で聞こえてくるのはだいたいそんなもん。
窓から見える景色は毎日大差ない。けれど、下のちょっとした広場で散歩をしている人がいたり、子供達が走っていたり、春は桜、夏はあじさい、秋は銀杏、冬は椿……一年中楽しめるよういろいろな種類の花々が植えられていたり。意外と飽きないもので。
気分の良い日はスケッチブックに描いている。同じ場所、同じ様な風景の絵。でも、よく見れば違いがある。
今日は数日ぶりに筆記用具とステッチブックを手に窓辺に椅子をおいて座る。は特に賑やかだ。そこそこ大規模な夏祭りをやっていて、夜には花火が上がる。
花火はここから少し離れた公園で打ち上げられるのだが、去年も一昨年も、その前も、俺はこの部屋の窓から眺めている。多少小さくとも、十分綺麗で楽しめる。
屋上に出ればもう少し見やすいのだろうけど、小さな子や家族連れで見ている人が結構居るから……昔から人混みは苦手で。
「青木さーん、診察のお時間です。」
「嗚呼、はい。ありがごうございます。」
ノックの音がして、見慣れた看護師さんとお医者さんが入ってくる。手元の道具を座っていた椅子に置き、ベッドへ戻る。
「……よし、一通り問題はなし。今日は調子が良さそうですね。」
「えぇ。久し振りに絵も描けそうで」
「それは良かった。出来上がったらまた見せてくださいね。」
「もちろんです。毎回同じ風景ですけどね。」
暫く話して、二人は病室をあとにする。
俺はいわゆる難病というものに罹ってしまったらしく、ここ数年は病院の外に出れていない。だから、この窓から見える景色が俺の唯一の外とのつながり。
高校は休学扱いだが、そろそろやめようか悩んでいる。多分、もう長くはないから。
窓から見る景色。スケッチブックに描き溜められた同じ場所の景色たち。俺の世界は随分と狭くなってしまったけれど、この小さな世界も案外嫌いじゃない。
#15『窓からの見える景色』
9/26/2024, 9:49:51 AM