真岡 入雲

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机に突っ伏してキツく瞼を閉じる。
こんなはずじゃなかった⋯⋯、なんて、在り来りの言葉しか出てこない自分が嫌い。
何でだろう、いつもそうだ、こんなことばっかり、もう嫌だ。

「どうした?」

声をかけてきたのは、腐れ縁の男友達。
名前を飯田 友樹という。
中学、高校と同じクラスで、大学まで一緒。
ついでに借りたマンションの部屋も隣同士とか、なんの呪いだろう。
まぁ、そんなことはどうでも良くて。

「別れたんだって」

こちらは、神崎 結花。
私の友達で、大学で知り合って、バイト先も一緒で仲良くなった。
見た目は派手だけど、すごく真面目な良い子。

「今回も短かったな」
「1ヶ月⋯⋯経ってないね」
「呪われてるんじゃね?」
「有り得るね。お祓いに行こうよ、沙奈、ね?」
「う〜ん」

私、藤堂 沙奈、二ヶ月前に二十歳を迎えました。
大学に通いつつ、青春時代を謳歌する今が、一番楽しいはずの時期なのに。

「これで、大学入って五人目?」
「そうだな 、中学からだと九人目か。あと一人で十人、二桁突入だ。頑張れ藤堂!」

コイツ、面白がってる。

「沙奈、可愛いのに。何で何時も浮気されるのかなぁ?」
「⋯⋯さぁ、なんでだろうな。日頃の行いが悪いんじゃないか?」

私はがばりと顔を上げて友樹を睨む。
が、私に睨まれても友樹は涼しい顔をしたままで、向いの席に座ってお気に入りの『おしるこ』を飲んでいる。
夏でも冬でも何時もおしるこを飲む変人、友樹。
いや、世間一般的には『イケメン』らしい。
私は坊主頭の頃から見慣れているのでそうは思わなくて。
まぁ、顔が整っているのも、スタイルが良いのも認めはするけど。

話を戻して。
友樹が面白がるのも無理は無くて、私は昔から付き合った相手に浮気される。
一番初めは中二の時のひとつ上の先輩。
先輩の方から告白してきて、私は嫌いではなかったので付き合った。
付き合ったとは言っても、放課後に一緒に帰る程度で、⋯⋯手を繋いだりはしたかな。
ただ、付き合い初めて二ヶ月経った頃に夏休みに入って、すぐに先輩からの連絡が途絶え、新学期一日目に一方的に別れを告げられた。
何でも好きな人ができたとか。
いや、ちょっと待て、私の事好きって告白してきたのそっちだよね?
という、私の心のツッコミは言葉として口から出ることはなかった。
まぁ、自分は先輩を好きだった訳ではなく、付き合って欲しいと言われたから付き合っただけだったし、傷つくほど相手に関心もなかった。
それからずっと似たような感じで、相手から告白されて付き合って、相手に新しく好きな人が出来て別れる。
そんなことを繰り返している。
大学に入ってからは、合コンとかで出会いが増えて付き合う、別れるのサイクルが加速した。
けど、相変わらず別れる理由は相手に好きな人ができたり、浮気されたりで、本当に呪われているのかもしれないと思う。
最近は付き合う時に『上手くいかなくったっていい、コレはいい人に巡り会うための準備期間なんだ』と思うようにしていた。
そうしないと、何だか自分が欠陥人間のような気がして来るから。
でも⋯⋯。

「私、恋愛向いてないのかな⋯⋯」

なんて呟いてしまうくらいには、落ち込んでいたりするんだけど。

「どうすれば、相手を好きになれるのかなぁ⋯⋯?」

友樹、何『おしるこ』吹き出してるのよ。
結花もなんで目を丸くして、私を見てるの?

「沙奈はあの人のことが好きだから付き合ったんじゃないの?」
「ううん、違うよ。どうして?」
「⋯⋯あの、今まで付き合った人で好きだった人って言うか、こう、その人のこと考えると胸がキュンって締め付けられるとか、夜も眠れないとか、一緒にいるとドキドキするとか、そういう人は⋯⋯いた?」

しばし考える。
胸がキュン?⋯⋯ないな。
夜も眠れない?⋯⋯いえ、いつも快眠です。
一緒にいてドキドキ?⋯⋯記憶にございません。

「いない」

ちょっと友樹、何むせてんのよ。
結花は何で頭抱えているの?

「沙奈はさ、そんな相手とキスしたりしてたわけ?」
「キス?」
「そう、キスとか、場合によってはセッ⋯⋯とか」
「⋯⋯してないよ」

キスなんてしていない。
だって好きじゃないから。
その先なんてもちろんの事だ。

「マジで?」

コレは、友樹。
ってか、何であんたそんな前のめりになってんのよ。

「何よ、悪い?手繋いだり、腕組んだりはしたことあるけど」

ん?何で友樹がガッツポーズしてるの?
結花 、なんでそんな深いため息吐いてるの?
え?何?私、何か変なこと言った?

「沙奈、お祓いの前に縁結びの神社行こうか」
「へ?あ、うん」
「それから、今日から飯田くんと付き合いなさい」
「へっ?」
「恋愛とは何か、教えて貰いなさい。いいよね、飯田くん」
「⋯⋯しかたねぇな」

何で友樹の顔が赤くなってるの?

「いい、沙奈。まずは人を好きになるとはどういうことか、飯田くんを見て学びなさい。全ては、それからよ。わかった?」

よくは分からないけれど、結花の気迫に負けて頷いた。
取り敢えず、友樹を見ていればいいのよね?
友樹と結花は何やら二人でコソコソと話をしている。

⋯⋯何か二人、ちょっと近過ぎない?

「⋯⋯?」

何だか胃の当たりがモヤモヤする。
昨日何か食べ過ぎたかな?

藤堂 沙奈、二十歳。
人生記念すべき?十人目の彼氏は、腐れ縁の飯田 友樹についさっき決まりました。
これからは『上手くいかなくったっていい』何て思いながら誰かと付き合わなくていいように、頑張って恋愛を学びます!



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(´-ι_-`) 友樹頑張れ〜(o⚑'▽')o⚑*゚フレーフレー



8/10/2024, 3:54:06 AM