あれは、突然の電話だった。仕事から帰ってきた俺はいつものように手洗いや着替えを済ませ、冷蔵庫からビールとおつまみを取り出し晩酌を始めようとした。そのとき、机に置いていたスマホが鳴りだした。誰だろう、と確認すると愛しの人からの電話だった。いつもは全然メールや電話もしてくれない人だったため、嬉しくなりすぐ応答を押す。
「もしもし、どうしたの?智くん」
「しょーおーくんっ?」
「はい?」
いつもより砕けた口調に少し違和感を感じる。
「むかえきて〜今ね、どうりょうの人と、お酒のんでるの」
ガヤガヤと周りの人の声が聞こえる。
「は?え、ちょ、」
「てことでよろしくう〜」
そのまま、ブチッと無機質な音が響いた。
…沸々と怒りが湧いてくる。
俺の恋人は、完全に酔っ払っていた。
しかし、そこが怒りの沸点ではない。人と一緒に呑んでいることが問題なのだ。
実は、今日一緒にご飯に行く約束をしていたのだ。でも彼から「ごめん、ちょっと行く場所があるんだ」と言われ断られた。大事な用事なんだろうと気にしていなかったが、まさか飲み会で、しかも大勢いるところにあの姿を晒しているのだと思うと居ても立ってもいられなかったのだ。
彼にとって恋人という存在は一番ではない。でもそんなんだったら、俺を優先してほしかった、と嫉妬してしまう。
車に乗り込み、法定速度ギリギリでぶっ飛ばし、その宴会会場に向かった。
辿り着き中に入ると、大勢の客で賑わっていた。奥の方へ進むとあっ!と声を上げ、こちらに近づいてくる人がいる。
「翔くん。やっと来た」
にこっと智くんが笑うと、後ろにいた同僚らしき人達がひゅーひゅーとからかうような声を上げた。
「じゃあ、おさきに、しつれいしまあ〜すっ」
智くんは俺に腕を絡ませて、行こ?と首を傾げた。自然と上目遣いになって頬も赤く思わず抱きしめたくなったが、もしやってしまったら恥ずかしがり屋な彼は一生させてくれなくなるかもしれない。さっさと車に乗り込み助手席に座った智くんは窓から夜景を見つめていた。
きらめく夜の街より、ずっと彼の方が美しく、見惚れてしまう。誰かに奪われるんじゃないかっていつも思うのだ。今日の飲み会だって襲われるのではと心配になるし、仕事のときもその独特な雰囲気に魅了されると焦る。こういうことを言うと「何言ってんだよ翔くん。誰もこんなヤツ相手にしないって」と返されるが自分の魅力に無自覚な所に思い悩む。
だから、あなたのためになら、何だってするよ。
何気ないふりをして。
3/30/2026, 1:23:05 PM