Ryu

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天国と地獄は隣り合っている。
その間には頑丈な扉があり、天国から地獄への移動は出来るが、地獄から天国への移動は出来ない。
極稀に、痛めつけられる方が天国だ、と感じる人もいるからってのが理由かと思うが、まあそうはいないだろう。
そして、地獄から天国への移動を許したら、地獄はいつも閑古鳥が鳴いているだろう。

…と、思われたが、最近、せっかく天国に召されたのに、自ら扉を開けて地獄にやって来る若者が増えたという。
閻魔様は不思議に思って、最近地獄に来たばかりの若者を捕まえて訊いてみた。

「おい、お前は何故、自らあの扉を開けたのだ?」
「何故って、こっちが良かったからだよ」
「だから、それは何故かと訊いている。苦しむことが好きなのか?」
「苦しむのは嫌だけど…ちゃんと働いてりゃ別に怒られないし、最近はこっちも緩くなったって聞いてさ」
「そんなことはないだろう。部下達はしっかり働いとるぞ」
「働いてるけど、優しくなったよ。今やどこの世界でも、体罰には抵抗があるんじゃないのかな」
「まあ…私としても、理由もなく痛めつけるのは気が咎めるが…」
「仕事もさ、言われた通りにやってりゃいいしさ、究極の指示待ち人間の俺にはちょうどいいんだよ」
「究極の指示待ち人間…他の奴らもそうなのか…しかし、天国にはもっと素晴らしい世界が広がってるんじゃないのか?…私が言うのも何なんだが」
「まず、明るすぎてさ、なんか落ち着かない。まあたぶん、生きてる間はずっと引きこもってて、スタンドライトの明かりだけで過ごしてたからかな」
「し、しかし、天国なんだから、優しくてイイ人達がたくさんいるだろう…私が言うのも何なんだが」
「だからぁ、ここの人達も優しいって。ボスのあんたの人柄も影響してんじゃないの?」
「そんなバカな。ここは地獄だぞ。私は閻魔大王だぞ」
「最近、パワハラの研修があったって聞いたよ」
「いや、あれは…」
「それにさ、天国の連中は、何かと他人を気遣っておせっかいなんだよ。一人でいる人間を放っておけないんだ。勘弁して欲しい」
「ここだって、あれやれこれやれうるさいだろう」
「そんな時は、何かやらかして独房の檻に入ればいい。あるじゃん、一人きりになれる場所」
「…あるな、うん、ある」
「そーゆーこと。じゃあ、もういいかな」

彼は去って行った。
納得したような、理解不能のままのような。
まあ、おかげで地獄も、天国に負けず劣らず大盛況だ。
私の査定も高評価されるだろう。
何も悪いことはないか…。

だが今後、彼のような人間が増えていくとしたら、本当にこの場所を地獄と呼べるのだろうか。
彼らにとって、ネカフェ並みの居心地の良さで、地獄としての機能を失ってしまうかもしれない。
そしたら、閻魔である私は、職を失うハメになるのでは?
それはまさに…地獄だ。

5/27/2024, 2:31:08 PM