プライドの高い彼女のことだからきっと嘘をついているだろうなと思っていた。
先週電話をかけた時に鼻を啜っていたのも、一昨日真っ赤な目で僕を迎え入れてくれたのも、昨日のお風呂が異常に長かったのも、理由は花粉症でも泣けるドラマでも気分でもないと僕は知っている。
だけれども、そう堅い言い訳をされると僕はそれ以上問い詰められない。というか、問い詰めてはいけないと了解している。
本当は、彼女がどうして泣いているのか知りたいし、もしかして自分が原因ではないかって不安だ。なにより、その堅い壁を挟んだ彼女との距離が悲しくて、辛かった。
なんでも言って欲しい。
でも言いたくないことは言わなくていい。
彼女の気持ちを尊重したい。
でも、やっぱり放っては置けなかった。
真剣に考えて、考えて、考えたけど、結局ストレートに聞いてみるほかなかった。待ち合わせのカフェでは、できるだけ軽く、軽く、と何度も自分に言い聞かせた。
「そういえば、最近何かあった?」
他愛のない世間話にそっと放り込む。
彼女は何か考えるような仕草をしたけど、
「いや、特にないよ。それよりもさ、、」
とすぐに話を変えられてしまった。
別れるとき、念押しで
「なんでも話聞くから一人で抱え込」
そこまで言って止まった。彼女は嬉しさ半分困惑半分の表情をしていて、僕はやってしまったと後悔する。彼女の意思を1番に、と思っていたのに、抱え込まないで、なんてわががまなお願いをしてしまった。
「っはは、ごめん。冗談だよ。」
と傷心を隠すような苦しい言い訳をする。
もう顔を上げることが出来なくて、慌てて別れの言葉をはいて踵を返した。
翌朝、彼女から1件のメールが届いていた。
『心配かけてごめんね。私、素直になれなかった。今日、ちゃんと話すから、また昨日のカフェで会ってくれませんか?もちろん、代金は私もちで(笑)それと、「泣かないで」って言わないでくれてありがとう』
ほんの数行に涙が溢れてしまった。
彼女の誠意とちょっとした照れ隠し。
それから、気遣い。全部が嬉しくて愛おしかった。
お互いの本音を包み隠さず言えるのが一番の愛で最高の仲だと思っていた。でも、彼女のメールが、気を遣い合うような関係もかけがえなのないものだと僕に教えてくれた。自分は間違っていないと言われたようなそのひと文を見て僕は、大袈裟でなく生きていてよかったと安堵したのだった。
11/30/2024, 2:28:11 PM