【世界に一つだけ】
首から下げた不格好で古めかしいデザインのペンダント。ぺらぺらと聞かれてもいない噂話に盛り上がる職場のかしましい同僚たちは、私の胸元に踊るそれに不意に視線を止めた。
「ずっと思ってたんだけどさ、それ服のテイストに合ってなくない?」
「いつも同じとしてるよね、新しいの買いなよ」
鼻をつく酒の匂いがわずらわしい。酔った勢いで気が大きくなっているのか、余計なお世話を向けてくる彼女たちに、悪気は一切ないのだろう。親切の押し売り、そんな言葉が頭の片隅をよぎった。
ああ、やっぱり断ってしまえば良かった。君が人付き合いも大切だよと苦言を呈するから、大嫌いな飲み会なんかに顔を出してあげたのに。
「良いの、これが気に入ってるから」
空気なんて一切読まずに、不機嫌さを込めた声でキッパリと言い切った。場の空気が凍り、一瞬の気まずさが訪れる。それを無視して、私は目の前のビールジョッキを勢いよく傾けた。
事故で片腕の自由を失った君が、それでも私のためにと作ってくれたペンダント。上手くできなかったからとこっそり捨てようとしているところを偶然見つけて、無理を言って贈ってもらった私の宝物。
世界に一つだけしかない、君の想いが込められた大切なペンダントは、今日も私の胸元で堂々と揺れている。
9/9/2023, 10:50:10 PM