初恋の人? 変なこと聞くのね。いいけど。
そうね、初恋の相手は、アップルパイみたいな人だった。
あったかくて、さくっと崩れてしまいそうで、それでいてシナモンの効いた、特別な日のアップルパイ。
見た目はふんわりしているのに時々意地悪なことを言う、私の大好きなお姉さんは、うちの隣に住んでいた。
帰りの遅い両親の代わりに、私をかまってくれたお姉さん。お姉さんにだったら、なんでも打ち明けられるような、そんな気がしていた。お姉さんと一緒に焼いたアップルパイは、いつも特別な味だった。
この思いが初恋だって気づいたのは、お姉さんが彼氏を紹介してくれた時。
振られて初めて気づくなんて、小説や漫画の中だけのことだと思ってたのに。さっと血の気が引いたのを、今でもよく思い出すなあ。
——素敵なお姉さんが私だけのものじゃないことくらい、考えればわかるのに。なのに私はいつまでもこんな関係が続くと思ってた。いつまでも二人でいられるような、そんな気がしていた。
全部全部、私が子どもだったからだ。お姉さんは、子守をしていただけだったんだ。
その次の日、私はこっそり一人で、アップルパイを作ってみた。でもお姉さんと一緒に焼いた時のようにはいかなくて。焦げてしまったそれは、とっても苦くて。私は一人、部屋で泣いた。
ん? どうしてそんな顔するの?
いいの、初恋ってそんなものだから。だからあなたもそう、私のことなんて忘れて、早くいい人を探して? こんな意地悪なお姉さんじゃなくて、ね?
5/7/2023, 11:13:25 AM