お題︰狭い部屋
ソファでは決まって寝たふりをする。とろんとした微睡を彷徨っていたいから。あなたの気配がするから。狭い部屋、二人分の呼吸が聞こえる。あなたは僕に毛布をかけて近づいて、缶ビール片手左右に揺らしながら、そっと慈しむのでしょう。囁くような鼻歌が木霊するこの部屋は、きっとまだ淡いカーテンを透かした光が揺らめいていて、僕の頭の上で3拍子を刻むあなたは眩しそうに目を細めている。その温もりはたいそう幸せそうで、けれど確かな寂しさばかりが重なり響き合う。互いに気づかないふりをするから、ぶつかり合うのが怖いから、不器用な優しさとやらがつっかかっている。それはきっと、いつでも物分りのいい人として目を覚ましているから。分かっている。それでも尚気づかないふりをしている。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
何もなかった。さも当然のように離れていく。知っているのに。狭い部屋で二人、確かに息をしている。狭く薄明るい部屋が心みたいだと思った。
6/4/2023, 11:56:06 AM