たも

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『天井』

「クドア」という寄生虫らしい。アニサキスなら知ってるけど、知らないわ。一昨日に釣ったヒラメを刺身にして食べたが、そこにいたらしい。酷い吐き気がして食欲も無いが、自宅で2日も安静にしていれば治るとか。

大したことはない、そう思って布団に入っても寝つけない。熱があるわけではないから、そう寝れるもんでもない。天井を見て思うことなどない。でもそういえば、爺ちゃんが晩年、病室で模様のある天井を見て、「魚が泳いでる!」と看護師を呼び止めていたと聞いたな。

そうか、初めて釣りに行ったのは、爺ちゃんとだったな。朝4時、起きるとは言ったがいざ起こされるとぐずる俺を、叩き起こして海へ向かう。釣ったのはハゼだったか。リールも使わないような気楽な釣りも、良いもんだった。

釣りの話を、小学校の帰りのスピーチでよくしたものだ。大方みんな興味がない釣りの話を、やれこの前はカサゴが釣れた、船に乗せてもらって太刀魚を狙いに行った、だの長々と喋っていた。喜々として喋っていたから、担任も止めるに止められなかったんだろうか。木津が日直の日は帰りが遅れると言われ、特に女子には嫌がられた。

1人だけ、俺のことを好いてくれる女子がいたな。俺が夢中で自分の好きなことの話をするのがかっこいいと。バレンタインの日にチョコをくれたはずだ。いつしかくれなくなったけど。思えばあれが、明確に人に好意を向けられた初めての経験だったか。

吐き気がおさまらない。頭も痛い。天井の次はトイレのドアを見る。

俺の記憶はどこまでが本当か?なんか今思うと美談になっているが、当時こんなに楽しかったか?子どものころは正直釣りなんて行きたくなかった。学校で嫌われている自分が嫌だった。女の子が好意を向けてくれたような気はするが、チョコなんかもらったか?俺の思い込みか?
トイレのドアは、染みだらけの天井よりも愛がない。無機質だ。

2/24/2024, 12:21:39 AM