「やるせない気持ち」
それは嘘だったはずだ。ただの遊びだったのに。友だち3人と仮想の恋人を作って、嘘の恋バナをして楽しんでいた。制服デートに憧れていたけど中学から女子校で、男の子とは出会う機会もなかったから。
学校内だけにとどめておけばよかった。夏休みの宿題が終わり、久しぶりにファミレスに集まったとき、夏休みにしたことを話していた。妄想だけど。
私は小学校の時の同級生を架空の相手にしていた。初恋と言っていいのだろうか、胸が痛くなった唯一の人。校庭で転んだ私を「大丈夫?」と手を取って立たせてくれて保健室に付き添ってくれた。その子は保健係だったから。養護の先生がいなくて、その子が消毒して絆創膏を貼ってくれた。ただそれだけ。
名前だけ借りたんだ。淡すぎる思い出で、きっとあの子は忘れているだろう。夏休みに一緒に遊園地に行ったことにした。遊園地に行ったのは本当。両親と小学生の弟と一緒に。
飲み物がなくなって一人で席を立ってドリンクバーに行った。紅茶用にお湯を注いだ。どれにしようかなと迷っていると後ろから話しかけられた。
「一緒に遊園地なんて行ってないけど?」
振り向くと背の高い男の子。見覚えがある顔。あっ!
「聞こえちゃったんだよね」
「ごめん。高橋くん?」
「そう」
「勝手に名前借りてごめんなさい」
平謝りするしかない。本人がいるなんて想定外だ。こんなに背が伸びて髪型も違うけど、確かに高橋くんだ。
「じゃ、彼女が待ってるから」
そう言って席に帰って行く。彼女いるんだ。そうだよね、かっこいいもん。お湯を捨ててエスプレッソにした。やるせない気持ちと一緒に飲み込んだ。もう架空の相手にはできない。現実の彼に会ってしまったから。
8/25/2024, 9:24:42 AM