月凪あゆむ

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優しくしないで

 私の幼なじみは、ひとに優しい。
 いや、もちろん良いことだとは思う。なんだけど……。

 今日もまた、彼の後ろには、「応援団」という名の取り巻きがいる。
 その視線はわかっていながら、こんなことを言ってきた。

「今日、一緒に帰れる?」

 珍しいなと、その時はそう思っただけだった。
 幼なじみということで、他より多少距離感が近いのは、私も彼も、当たり前のつもりだった。

 けれど。
「ずるーい!!」
応援団は、そうは思ってくれていないらしい。なので。
「あの、さ。いいよ、もうあんまりかまってくれなくて。そんなにしてこなくて、大丈夫だからさ」
 なんでもないことのように、私は苦笑しながら、そう言うと。
「いや、そんなんじゃないよ? 本当に、無理にしてるんじゃなくて」
「だって、ほら。あの子たちが不安になっちゃうよ」

「――違うから。俺が、かまいたいだけなんだけど」

 え、なんか怒ってる。
 ただ、どこに地雷があったのかがわからないから、困る。
「よく、言ってるよね? 自分のしたいことをしてるから、大丈夫なんだ、って」
 まあ、そのお人好しの結果が、応援団に繋がるわけだけど。
「俺が。自分の意思で。気になる相手に優しくしたい。それだけのつもりで、いま声かけた」
「いやいや。簡単に「気になる相手」なんて言わないほうがいいよ?」
 こちらとて、幼なじみの域をこえたくないのに。

「なら、好きなひと」

「……困るから、とても」
「なんで?」
「私ら、ただの幼なじみだよね?」
「俺は、お前のことそう思ってたのは、もうずっと前で。もういまは「好きなひと」になってんだけど」
「…………」
 どうしよう。初耳だ。

 でも。私はよくこう思っていた。


誰にでも、優しくしないで。
私にも、あんなふうに、いや、もっと。
 
 甘やかして、くれたらいいのに。

 それを、「両思い」と言わずして、なんと呼ぶのか。

5/3/2024, 2:31:07 AM