第六話 その妃、関わらず
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黄昏時の小さな公園に、幼い影が二つ伸びている。
キーコーと、静かにブランコを止めた女の子が『あのね』と囁いた。
『わたし、――くんのおよめさんになりたい』
『えっ、うわ⁉︎』
驚きのあまりブランコからひっくり返った少年は、その場に思い切り尻餅をついた。さらには、追い討ちをかけるように帰ってきたブランコにも攻撃を受ける。
『い、たた……』
少年はゆっくりと警戒しながら体を起こした。そして、ブランコが完全に止まったのを確認してから、身の回りの状況を一つずつ把握していく。
土まみれの学生服に、丸まったちいさな背中。夕暮れのように真っ赤に染まるちいさな耳と、そして、タイミングよくアホーと鳴くカラス。
苦笑を浮かべながら土を払い、女の子の前へとしゃがみ込んだ。
『――ちゃんは、僕のことが好きなのかな』
恥ずかしそうに俯いた女の子は、顔を真っ赤にしながらもこくりと頷く。
その必死な様子に、少年は『ありがとう』と微笑んだ。
『……なら。もしも――ちゃんが、大人になっても僕のことが好きだったなら。……僕のお嫁さんになってくれる?』
『――‼︎ ……うんっ』
遠慮がちにそっと絡むちいさな小指。
微笑ましい、幼い二人の思い出。
それは、誰かにとってとても大切な約束で。そして誰かにとっては――……
* * *
「……それで、言い寄っていたら、いつの間にか踏み潰されていたと。馬鹿じゃないの」
首の痛さに思わず目を覚ます。
いつまでも続きそうなくだらない話に目を閉じていたら、いつの間にかすっかり眠っていたようだ。
「だから、それは誤解だよ。ただ好みのタイプとか、好みの男の仕草とか、恋人に求める条件とか聞いてただけで」
「それを普通は言い寄るっていうんだよ馬鹿」
「仲を深めるための雑談だってば」
どうやら、未だに白熱な闘いを繰り広げている様子。完全に、起きる時を間違えてしまったらしい。
離宮の妃は、再び目を閉じることにした。
争い事には関わらないのが一番。
それを、よく知っているからだ。わかっているからだ。
いやというほどに、懲りているからだ。
(……これが、本当に最後だから……)
そうしてまた、起きる前同様宦官男の肩を借りることにした。
少しでも、あの夢の続きが見られればと。
見られなくても、何か面白い夢が見られればと。
そんな、些細な望みを胸に抱きながら。
#ブランコ/和風ファンタジー/気まぐれ更新
2/1/2024, 11:01:48 AM