「彼女のためなら」
俺の初恋相手は、幼馴染で、何不自由なく育てられたお嬢様。
毎年、誕生日のプレゼントを俺に強請ってくる。
幸いなことに、モノではないから助かっているが。
まぁ、欲しいものは何でも買ってもらっているみたいなので、庶民の俺に物を強請るなんてことは、する気にもならないのだろう。
「今年はね、誕生日まるまる一日、ずっと一緒にいてほしいの」
「朝から晩までか」
「違うよ。夜中の零時からずっと。一日中。日付変わるまで」
「いや、さすがにそれは……」
「どうして?」
「どうして、ってなぁ……いくらお前に甘い親でも、そんなのダメだって言うだろ」
「言わないよ〜あの人たち、私のこと、高級な物を与えておけば良い存在だと思ってるだけだもん」
「そんなことないだろ」
「あるよ」
泣きそうな顔をされてしまい、それ以上何も言えなくなってしまった。
「私が一緒にいてほしい時に限って、一緒にいてくれないもん。いつもいつもいつもそうだよ」
口調は穏やかなのに、泣き叫ぶような表情をしている彼女を思わず抱きしめる。
「わかった。誰が何と言おうと、その日はまるまる一日中、俺が一緒にいてやる」
俺には、こんなことしか出来ない。
だけど、それで彼女が笑顔になってくれるのなら……
「ありがとう。ふふ……楽しみー。一日中ずっと遊べるね」
純粋培養のお嬢様である彼女が『夜中から朝、昼、夜と男女がずっと一緒にいること』が、どういうことなのかイマイチわかっていないことなど、俺にとっては些細なことなのだ。
────形の無いもの
9/24/2024, 3:14:56 PM