ドライヤーのスイッチを切り、由実は溜息をついた。髪の毛って、乾いたと思ってもしばらく置くとまた湿ってくるのはなんでなんだろう。
自分より長い髪の妹に言ったら「そんなことあるぅ〜?」と一蹴されて終わった。由実の髪は肩に届くか届かないかくらいのボブだが、それでも多少時間がかかる。それで余計なことばかりぐるぐるする。あんなこと言うんじゃなかったかな、とか。
今日の千佳子の反応は、たくさんあった未来うちの、ほんのひとつだったのかもしれない。選ばなかった未来、失ったものばかりがいつだってクローズアップされがちだ。
再度スイッチを入れ、手首から大きく振って前髪に風を当てた。一部分だけに熱を与え続けちゃダメなんだよと、千佳子が言ったから。
過去に未来にと暗い思いを馳せるのは性に合わない。ドライヤーを片付けた由実は、スマホを開いた。週末の待ち合わせ場所を送ってみる。
この現実を自分の手で、見える未来に変えたい。
『見えない未来へ』
11/21/2025, 9:58:37 AM