お題『風に乗って』
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穏やかな春の陽気。涼し気な風。ふかふかの芝生。湿度も……うん、高くなくてカラッとしている。ここ数ヶ月で1番の天気だ。
私は家の近くの丘にやって来て、ひとり満足気に頷く。
「よし」
私はほんの少し勢いをつけて芝生に倒れ込んだ。思ったほどクッション性は無かったが、それでも芝生は私を受け止めてくれる。
仰向けに転がると、私はそっと目を瞑る。太陽は眩しすぎず、全身にほんのりと熱を与えてくれる。
「あぁ、良い天気だ」
あまりにも穏やかな時間が流れる。心地良さのあまり、私はいつの間にか微睡んでいた。
夢の中で私は、空に浮かんでいた。空を飛ぶのではなく、浮かぶ。自分の意思で動くことはなく、ふわふわと空に浮かぶ。
私の横を鳥たちが忙しなく飛び、地上を見ると人々があくせく働いている。
でも、私は空に浮かぶ。ふわりふわふわ、ふわふわり。私は風に乗って、ゆっくりと穏やかに動いていく。どこを目指す訳でもなく、風に乗って、どこまでも、どこまでも。
大きな大きな海の真上まで来たところで、幸せな微睡みから、ゆっくりと意識が浮上してくる。そっと瞼を開くと、太陽の優しい光が目に入る。
体をゆっくりと起こし、持ってきていた魔法瓶から温かいスープを注ぎ、一口飲む。
「明日からも、がんばろう」
4/30/2023, 3:05:19 PM