相合傘
「え、雨降ってんじゃん」
下駄箱で靴を履き替えながら、彼女はそう言った。傘をささずに走っていけるほど、家も駅も近くないし、それなりに降っているためびしょ濡れになることは想像に難くない。
「ねぇねぇ、傘持ってる? 駅まででいいから、入れてってー」
泣きつくように甘えるその様子に仕方ないなぁ、なんて思いを全面に出しながらいいよ、と笑う。
あまり大きくない長傘を開いて、傘の下へと二人して入り込んだ。お互いの肩が少しはみ出ているが、気にすることなく歩き始める。
何気ない会話をしながら、心臓の音が彼女に聞こえないように平静を保ちつつ、それでもいつも以上にこぼれてしまう笑みを隠せないまま、一本の傘の下で肩を寄せ合って歩いた。
本当は折り畳み傘も持っているけれど、その事実は鞄の奥底に仕舞い込んで、ほんの少しの幸せなひとときを味わう。
ああ、きっとこの想いは彼女を困らせるだけだから。
わかっているからこそ、その気持ちに蓋をして、今日も彼女の親友として隣を歩くんだ。
6/19/2023, 1:11:09 PM