池上さゆり

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 限界なんですと泣いていた先輩を助ける方法はなんだろうとずっと考えていた。限界だと訴えかけながらも、毎日笑顔で登校して日常を送っている先輩にとってはそれだけで必死なんだったと思う。
 だから、限界だという訴えかけが死にたいに変わった時驚かなかった。死なれたら悲しいなんて言葉も言えなかった。理由を訊く勇気もなかった。ただ、それを受け止めて泣いている先輩の背中をさすってあげることしかできなかった。
 ある日、夏服の上にカーディガンを羽織って先輩が登校してきた。いつもの笑顔はなく、深く沈んだ表情を隠さず歩いていた。いつもの放課後になってまた屋上に集まった。体調の心配をすると、袖を捲って傷だらけになったその腕を見せてきた。リストカットしたのだとすぐにわかった。
「昨日、切ってお湯につけてたけど全然死ねなくて。だからもっとたくさん切ってしまえばって思ったんだけど、全然ダメだったの」
 嗚咽をもらしながら、涙を流す先輩。私にこの痛みはわからない。だけど、本気で死のうとして、ここまで追い詰められている先輩が見ていて胸が締め付けられた。
「先輩、本気で死にたいのなら私が手助けします」
 涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげて、先輩は驚いた顔をしていた。
「じゃあ、お願いがあるの」
 二人で屋上のフェンスを乗り越えた。風が強く吹き付ける中、下を向くと舗装された煉瓦造りの道があった。ここから落ちれば確実に死ぬことができる。手を繋いだ先輩の横顔には涙の跡が浮かんでいたが、表情はどこかすっきりとしていた。するりと私の手を離した刹那、先輩は地面に背を向けて落ちていた。はっきりと聞こえたありがとうが先輩の最後の言葉だった。

4/28/2023, 12:57:29 PM