影絵
「影を見てる」
夕暮れの神社に一人うずくまる少年を見つけて、何をしてるの、と声を掛けたらこう返って来た。夕陽を背に受け、少年の影がぼんやりと地面に伸びている。
「どうして?」
「どれだけ逃げても、ずっと追いかけてくるんだ。だから見張ってる」
子供らしい素直な発想だ。思わず頬を緩め、同じ様に隣に座り込んだ。
「追いかけてくるのは当然だ。影は君の真似をしているから」
「そうなの?」
「そうだよ。だから、こんな遊びもできる」
こうしてご覧、と中指と薬指をくっつけ、親指と合わせた。少年も素直に真似をする。地面に少年の手の影が浮かび上がった。
「狐?」
「うん。正解」
すごい、と少年は目を輝かせた。もう片方の手でも狐を作って、色々と手を振って遊んでいる。少年は立ち上がって、満面の笑みを向けて来た。
「すごいね君。君は誰?どこから来たの?」
少年と同じ様に立ち上がる。風に着物の裾が揺れた。
「僕はその影みたいなものだよ。この神社にずっと昔からいるんだ」
狐の影を見つめる。少年は首を傾げた。
夕焼け小焼けのチャイムが鳴った。あたりがだんだん薄暗くなってくる。
「早くお帰り」
ただ一つ、少年の影だけが石畳に落ちていた。少し日の伸びた、ある夏のことだった。
4/19/2025, 1:36:30 PM