NoName .

Open App

貴方は別に、特別な人じゃなかった。
他人より優れた能力を持つわけでも、強い意志があったわけでも。
なら何故、私は泣いているのだろうか。
手に伝った買ってしばらく経ってしまった期間限定フレーバーをちろりと舌先で食んだ。

ただぼんやりとあの子を思い出す。
貴方は強くなかった。
球技大会で流れ弾に当たり情けなく笑っていた。
貴方は頭が良くなかった。
頭が良さそうな眼鏡を付けておいて自信あったのになーっと補習へ向かっていた。

けれど決して貴方は弱くなかった。
状況に屈することはなく常に次の一手を考え続けた。
彼女は私には生きて欲しいと言った。どうして私をと答える時には全てが遅かった。
私がじゃんけんで負け奢った彼女の好きな3段アイスが転がっていた。


ぽたり。

薄汚れた店内でへたり込む少女は二度と戻ることのない手の温度でショーケースで溶け混ざりあってしまったアイスクリームを眺めながら。

ぽたり。

好きだった期間限定フレーバーが手を伝い落ちた。

8/11/2025, 7:35:33 PM