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「ティーカップ」


母のお気に入りのティーカップがあった。
決して高い物ではないけど、絵画風の柄が入っていて、とてもキレイなカップだった。

でも、引っ越しのさなかに何処かに行ってしまった。
ふとした時に、「あのカップ何処に行ったんかね?」と母が言っていたけど、私も探したけど見つからず、でも「なくなった」とは言えず、ネットとかで同じ物を探したけど、古い物だから見つからなかった。

その内に母に病気が見つかり、ベッドで過ごす時間が多くなり、物を考える時間も山程あって、又カップの話をする事も増えていた。

そして、結局見つからないまま母は亡くなってしまった。

何で母があんなに大事にしていた物を失くしてしまったんだろう?
自分の手の中にある時はぞんざいに扱って、失ってから大切さに気づく。
それは物だけではなく、人もそうだし、信頼とか、形のない大切な物もそう。

何度も失敗したのに、何度も後悔したのに、どうして私は同じ失敗を繰り返すのだろう?

失った物はどうにもならない。
だからせめて、今度こそはこの失敗を糧に、自分の手の中にある大切な物を失わない様に生きて行きたいと思う。
そんな事しか出来ないけど、せめてそれが、母に対する謝罪だと思うから。



11/11/2025, 10:17:35 AM