「最後の声」
燦々と輝く大きな太陽、何処までも続いているかのように思ってしまう広く蒼い空、己の命が尽きるまで必死に未来へ繋ごうとする蝉の声。そして、その中で少年は駆けていた。
「終わりは無い」
「畦道は何処までも続く」
それが彼にとっての希望であり、生きる意味だった。
彼は世界を知らない。純粋無垢な少年で、重荷をいっぱいに背負っていた。そんな重荷を少年は、まるで無いかの様に駆けている。彼は何処へ行くのだろう。
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ある一人の社会人が満員電車の中で外を眺めていた。ジリジリと強く輝く太陽、何一つ変化のない空、いずれ死んでしまうであろう蝉の大きく耳をつんざくのではないかと思う声。そして、その中で社会人は眺めていた。
「終わりはあるのか」
「何処まで走れば救われるのか」
彼は希望を探すため、絶望に浸る。それが彼の生き方だった。彼は知ってしまった。邪念を持った社会人は、昔背負った重荷に押し潰されそうになっていた。もう走る気力すらも無い。私は果たして進めるか?
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ある一人の老人が病室の窓から外を眺めていた。
長く共に歩んできた太陽、大地を包み込むかのような大きな空、己の命を最後まで輝かせんとする蝉の声。そして、その中で老人は終わりを眺めていた。
「終わりはあった」
「だが、私は幸せだった」
彼は薄れる意識の中で、静かな喜びと少しばかりかの哀愁を一生を振り返るように目を閉じた。この先、私は「知る」ことが出来ないだろう。後は「無」に帰るだけであると、彼は旅の終わりを感じ取っていた。重荷を下ろす時である。いつか、また重荷を背負って進めるだろうか。彼はただ、終わりを待っていた。
了
6/27/2025, 8:39:20 AM