るった

Open App

【 ススキ 】

幽霊の 正体見たり 枯尾花。
要するに、ビビリを指す言葉だと、俺は本気で思ってた。
あの日、彼に会うまでは。

近所に背の高いススキの群生があって、
昼間は子どもたちがよくかくれんぼして遊んでる。
だが夜になると、背の高さが禍して不気味な気配を醸す。

だから夜に通りたくはないんだが、
先輩との飲み会の帰りはやむを得なかった。
ススキの群生前を足早に過ぎようとすると、突然白いものが視界に入り、あ、と思う間もなくぶつかった。
と、思ったが、想定した衝撃は訪れなかった。
代わりに、脳内で誰かの人生が高速で再生されていく。

決して結ばれてはいけない相手との、苦しい恋。
思いが昇華されぬ内に病に蝕まれ、相手にも見放され。
失意の淵に立ち、飛び降りた。

これはきっと、白いもの…幽霊の記憶だ。
我に返った時には、止めどなく涙が溢れていた。
もう俺の中に、彼はいなかった。

きっと、ここのススキの正体は本当に幽霊なんだと、
俺だけが知る枯尾花だ。

11/10/2023, 2:41:22 PM