nameless

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 ⚠︎微ホラー


 愛と平和なんていう、見ただけでも幸せになれそうなその言葉。僕はそれに、飽き飽きしている。
 僕は妄想が好きだ。数学の授業、化学の授業。どれもこれもつまらない。視界の端にとらえた教室のドア。そこからいきなり刃物を持った大男が現れる。教壇の上に立っていた先生がはじめに襲われて、倒れる。生徒は皆パニックになり、次々と襲われていく──その前に立ちはだかる僕。

 まあこんなふうに、学校にテロリストが入ってくるやら、クラスメイトがゾンビ化して僕と美少女だけが助かるだとか、そんな妄想ばかりして遊んでいる。

 愛と平和、何故僕がそんな言葉を頭の端で思ったのかというと、今が倫理の授業中だからだ。

 皆さんが考える愛と平和とは?──なんの授業なんだろう、と思う。こんなことを考えて何になる?中学生かよ。

 ありきたりなことを、とりあえず書いてみようと思う。愛と平和。うーん。愛の反対語は憎だろう。愛憎がなんちゃらとか言うし。
 平和の反対は…?戦争?

 僕は白紙に、誰のことも憎まず、戦争が起きないこと。そう書いた。だからなんだと言われそうだがそんなことはどうでも良い。

 このつまらない日常に、何か起きてくれないだろうか。愛と平和なんて、そんなもう日常にありふれているようなことは良いのだ。逆に、憎とか、戦争とか、そういう要素が少しは欲しいと思ってしまうのも許して欲しい。戦争を望んでいるわけではないが、それでも、何か面白いことが起きないかな、僕はずっと日常に変化を求めている。


 「えー、ではプリント回収しますよ。後ろから集めて」

 窓際の後ろの方の席の俺は、妄想の世界から慌てて抜け出し、後ろを向いて男子からプリントを受け取った。それを、前に回していく。視界の端に、雲ひとつない青空を切り取ったような窓枠が映る。

 ビチャ。

 窓にナニカが付着した、それは、血飛沫のような赤黒い色で、鳥のフンであることはなさそうだ。僕は目を擦った。ここは三階だ。何が起こったらこんなところに血飛沫が飛ぶ?

 その瞬間、僕は見た。黒髪が、真っ逆さまに落ちていく。白い顔が、こちらを向いている。しっかり、こちらを向いて、そうして、それはまるでスローモーションのように。

 口が動いて、こう言った。

『お前のせいだ』

3/10/2024, 8:09:29 PM