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 霜降る朝。
 一件の店の前に行列ができていた。
 大人気店だ。

「朝早くからWEB予約したんじゃないの?」
 後部座席から、娘の気だるい声が聞こえる。曇天の空の下で、私の気持ちも沈む。
「予約開始とともにログインしたわよ。でも、30番。ここで待ってないと抜かされるし、仕方ないの」
「ライブチケットの争奪戦かよ……頭痛い」
 これで「じゃあ、帰ろう」と言えたら、どんなに楽だろう。でも、私たちは何としても並ばないと。あの香りを吸い込んだ瞬間の達成感と安心感は、他のものには代えられない。

「30番の方、お入りください」
 白いエプロンを付けた恰幅の良い女性が、手を口に添えて叫んでいる。私は車の窓から身を乗り出す。
「はい! 30番です。お願いします」
 やっときた。
 娘はトロンとした目に涙を浮かべながら、重そうな身体を動かす。私は娘の脇を支えながら、一緒に店の扉をくぐった。
 
「インフルエンザの疑いです。高熱で、吸入を希望します」
 マスクを付けた看護師が体温計を振りかざして、微笑む。奥の診察室では点滴につながれてぐったりしているおじさんの姿が見えて、「ギャー」と泣きわめく子供の声が病院内に響き渡っている。

 冬がやってきた。
 インフルエンザの大流行とともに。

11/28/2025, 1:44:39 PM