ふうり

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「それじゃあ、明日!」
幼馴染の彼女は、そう言ってにかっと笑った。
肩上で揃えられた茶髪を風に揺らし、教科書でパンパンになったスクールリュックを背負ったその背中は、いつにも増して可愛らしく見えた。

「うん、また明日。」
僕はそう言って、後ろに隠した手紙を握りつぶした。
ちょうど、漢字を書き間違えた事を思い出したのだ。
渡すのは、また明日でいい。
そう言い聞かせて、いったい何個の×をカレンダーに描き記したのだろうか。

彼女の姿が見えなくなるまで、僕はその場で立ち尽くし、空に広がっているかさばり雲を見つめていた。
ため息をつきながら、スマホを取り出してSNSを開く。
歩きスマホなんてダメだとわかっているが、このもどかしさを解消するためにはしょうがない。
彼女とは心がつながらないと言わんばかりに、反対方向の道を歩く。
しょうがない。だって僕の家はこちらなのだから。

TLにはしょうもないツイートと、有名人の投稿にリプをする有象無象が並んでいる。
そこに、一際目立つツイートがあった。
それは見たことのある住宅街が映された動画。
住宅から黒い煙が立ち昇り、画面が激しく揺れている。

「あれ、ここ公民館の近くじゃ…」
爆音が、その独り言をかき消した。
驚いて振り向く
振り向いた。音のする方に、振り向いてしまった。
それは、彼女が歩いて行った方角。
彼女の家がある、公民館付近の方角。

瞬きなんて許されなかった
遠くの家屋は轟々と燃え盛り
黒煙がかさばり雲を侵食していた
火の匂いが鼻の奥に突き刺さり
子供達の悲鳴が、甲高いサイレンが脳に響き渡る。
その中に、彼女の声が聞こえたような気がした。

お題『永遠なんて、ないけれど』×『かさばり雲』

9/29/2025, 7:41:13 AM