弥梓

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『誰もいない教室』
※BL 二次創作 

放課後、夕暮れが空を赤く染める。
開けっぱなしの窓からは、グラウンドで部活に勤しむ運動部の掛け声が聞こえてくる。
廊下からは誰かの足音も、友人同士ではしゃぐ声も聞こえる。
それなのに、俺は教室で孤独だった。
自分で選んだ道だ。
いつの間にか大切になってしまった友人を犠牲にすることも、あいつらを裏切ることも。
そこに後悔はない。
誰に恨まれようと、俺は復讐を果たしたかった。
その覚悟はとっくにしていた。
それなのに、甘ったれた後輩一人のせいでその決心が揺らごうとしている。
何人も仲間を死地に送り、無関係な人間も巻き込んだ。
今更俺一人が引き返せるはずもなければ、許されることは決してない。
地獄に落ちる気持ちに変わりはないが、そんな俺を見たあの紫の瞳が涙に濡れて、俺を救えなかったことを後悔したあいつは、一生心の傷を追って生きるのかもしれない。
そんな姿を想像しただけで、今更引き返す方法はないかだなんて馬鹿げたことを考えてしまう。
最初は利用するつもりで近付いたはずが、気付けば踏み込みすぎて全幅の信頼を向けられるようになってしまった。
それが苦しいのに嬉しくて、ついついあいつを甘やかして関係を深めてしまった。
ついには、俺を見るあいつの瞳に甘いものが混じりだした。
これ以上はもうやめるべきだ。
あいつが自分の恋に気がつく前に、突き放して関係をリセットするべきだ。
そう分かっているのに。
「どうしたんだ?一人で」
突然声をかけられて、俺は驚いて声の方を向く。
開いた扉から入ってきたのは、今まさに考えていた後輩だ。近づく気配に気がつきもしないなど、とんだ失態だ。
「あ、ああ……こっからだと運動分の女子がよく見えてな」
いつも通り女好きの軽薄な男を演じたが、後輩は俺の些細な変化にも目ざとく気がついて、心配そうに眉根を寄せた。
「何か悩んでいるのか?それなら力になりたい。俺じゃ頼りないとは思うけど」
そうだな、お前じゃ頼りにならねえから他の奴に相談する。
そう言えばいいだけだ。
分かっているのに、俺に突き放されたこいつの顔が悲しみに歪むのを想像したらだけで、決意は簡単に鈍ってしまう。
「まぁ、なんだ。もうすぐ卒業って思うと、少しおセンチになっちまってただけだ。いっそ、本気で留年してお前らと一緒に卒業するかな」
数ある選択肢の中から、最悪なことにこいつが喜びそうな言葉を選んでしまう。
予想通り後輩は目を輝かせた。
「一緒に卒業できたら俺も嬉しいけど、他の先輩たちが寂しがるだろ」
「それもそうだな」
「なぁ、その……無事卒業できても、たまには遊びに来てほしいし、その、卒業してからも会ってくれると嬉しい」
はにかみながら頬をかいて、上目遣いで俺を見上げる後輩は断られるなど微塵も考えていない。
俺はため息をついて。
「ったく、しゃーねえ。お前はほんと甘ったれただな」
そうしてまた俺は罪を重ねた。

9/6/2025, 5:49:40 PM