初日の出が見たいと彼女に連れられ、近所の公園に来ていた。
この公園は海が近く、水平線から出てくる初日の出がキレイに見れるという、この街の初日の出スポットだ。
だが今年は暖冬とは言え、日の出てない時間は気温が低い。
厚着をしてきたが、寒いので早く帰りたい。
そう思いながら東の空を見ると、何やら一際強く輝く星が見えた。
「明けの明星だよ」
僕の心を読んだのか、彼女が答える。
明けの明星、金星の別名。
日が昇れば、太陽の光でたちまち見えなくなってしまう、そんな星。
「あれ、満ち欠けするんだよ」
「よく知ってるな」
「見かけの大きさも変わる」
「マジか」
彼女の金星の知識に感心する。
言われてみれば確かにその通りだ。
月と違って、金星と地球の距離は変わる。
当たり前だが、考えたこともなかった。
その後も彼女は金星について、色んな話をしてくれた。
神話に絡めた話や、現代の創作物での扱い、宇宙移民計画の立案から廃案までのエピソードなど、様々なことを語っていく。
初日の出の見に来たのに、まるで新年初の金星を見に来たかのようだ。
彼女の話は面白く、あっという間に時間が過ぎていく。
ふと気がつけば、既に金星に輝きが弱くなっていた。
もうすぐ日の出だ。
彼女は十分話したのか、満足したようだった。
今まで知らなかったが、金星が好きなのだろうか。
「金星好きなのか?」
「うん、君よりも」
「えっ」
「キシシ」
驚いて彼女に振り向くと同時に、日が出て周囲を照らし始める。
だがイタズラっぽく笑う彼女の顔は、太陽でも隠せないほど輝いていた。
1/4/2024, 8:42:03 AM