一尾(いっぽ)in 仮住まい

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→短編・その雷は、私の心に届かない。

 雷が鳴った。
 1、2、3……、私は稲妻と雷鳴の間隔を数える。そしてもう一度、1、2、3、4。雷鳴の大きさに反比例して、雷は遠い。
 こんなふうに雷の遠近を測る方法を知ったのは、ずいぶんと昔。まだ小学生のころだ。映画がそれを教えてくれた。調べもせず、そう信じているだけ。

 貴方が怒っている。
 まるで日本画の雷様のように顔を真っ赤にして、何度も、怒りの雷を落とす。
 食後のコーヒーをあなた提供するタイミングが悪いというのが発端だった。そこからは、いつも同じ流れ。なし崩し的に色々なことを持ち出して、私を詰じる。
 大きな声を上げれば、私を威圧できると思っているのだ。
 昔は確かに私も震え上がったものだけれど、何度も同じことを繰り返すうちに、私の心は慣れてしまった。いきなりの怒鳴り声に驚きはするが、数を数えて平静を取り戻すことを覚えた。習慣から得た学習だ。
 もはや、怒号は遠雷。ただ聴いている。
 この雷が私の心に届くことは、もうないだろう。

テーマ; 遠雷

8/23/2025, 11:20:03 PM